文部科学省科学研究費補助金『特定領域研究』/染色体サイクルの制御ネットワ−ク
染色体サイクル
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学会シンポジウム報告
学会見聞録 1  EMBO Workshop報告
  末次 正幸 Masayuki Suetsugu
  九州大学 薬学研究院 助手
  黒川 健児 Kenji Kurokawa
  東京大学 薬学系研究科 講師
 2006 年8月23日から27日の日程で、EMBO主催によるワークショップ「Cell Cycle and Cytoskeletal Elements in Bacteria」がデンマークのコペンハーゲンで行われた。細菌の染色体の複製、分配、細胞分裂、細胞骨格に関する研究を展開する、世界の主要な研究室からはほぼ参加がある印象であった。約100名の選別された参加者で行われ、日本からは九大の片山、末次、遺伝研の仁木、奈良先端大の小笠原、趙、京大の足立、東大の黒川の7名、ボストンから仁木研出身の山市の各氏の参加があった。

 多くのメンバーは既にお互いに顔見知りであり、それぞれの研究の進展とその解釈、今後の計画について議論が進められた。お互いの研究を尊重する雰囲気があり、それぞれが独自な研究を行おうとする意欲を見せ、またその独創性をアピールしていた。会議は早朝から夕刻までタイトなスケジュールで行われたが、ポスター発表の予定終了時刻を過ぎても盛んに議論が行われ、貪欲に新しい知見を吸収し、取り入れようとする様子がうかがわれた。その中で、若手の演題が積極的に口頭発表に取り入れられており、若手育成の配慮がなされていた印象であった。筆者(黒川)は海外での口頭発表を初めて行い、どうなることかと不安であったが、映写のトラブルは参加者の助けを得て、そして質疑応答は座長のサポートを得て、なんとか終えることができた。

 会場はCarlsberg Academyというビール会社の中の温室様式の建物。ホールに並べられた椅子を囲むようにしてポスター用のパネルが並べてあり、アットホームな雰囲気である。ドーム型の天井はガラス張りになっていて、採光が非常に良い。良すぎてスライドの写真が見えにくいというトラブルもあったが(特に今回、蛍光の写真が多かった)、その翌日には椅子とスライドの向きが全て変えられ、日が当たらないようにされていた。隣接する部屋にはカウンターバーとビールサーバー。ビール会社のバックアップにより水やジュース類、軽食時にはビールが提供され、様々なビールを楽しませてもらった。

 さて、その内容であるが、いくつか印象に残ったトピックをまじえながら項目ごとに紹介したい。まずCytoskeletal Elementsがもう一つのテーマとなっているだけあって、細胞生物学的な手法が目についたことに言及しておく。近年、細胞内で蛋白質の局在を観察する技術が発達し、バクテリアにおいても真核生物同様、チューブリンやアクチンフィラメントといった細胞骨格と呼ぶべき蛋白質が見出されている。チューブリンホモログであるFtsZは細胞分裂時に細胞中央に集まり、細胞を仕切るようにリングを形成する。また、MreBはアクチンフィラメントを形成し、細胞をらせん状に取り巻いて、細胞形態を決定している。他にも細胞内で特定の場所に局在する因子が次々と見つかってきている。したがって、バクテリアといえども単なる細胞内構成成分を詰め込んだバッグではなく、各因子の配置が厳密に制御されたシステムであるということが明らかとなってきた。これらがダイナミックにその位置を変えながら細胞周期が進行していくのだから、“Cell Cycle and Cytoskeletal Elements”をテーマとした本ワークショップの意義は大きい。

【染色体複製】
 染色体複製の分野においても、蛋白質の細胞内局在性に着目した研究が目を引いた。バクテリアでは、複製装置が細胞内で局在性を示し(Fociを形成する)、これがあたかも工場のように働き、染色体DNAがたぐり寄せられながら複製されていく(ファクトリーモデル)。今回、複製装置の細胞内局在性の空間・時期的な側面についての解析についてSkarstadを含めいくつかのグループからの発表がみられた。またCrookeらによって、複製開始蛋白質DnaAの細胞内局在性の観察も試みられていた。こちらは細胞内で機能しうるGFP融合型DnaAの構築に苦労しているようであったが、GFP融合部位の工夫により、何とかその局在性を示した印象であった。

 複製開始の制御機構については大腸菌を用いた研究が詳細になされている。Leonardらは、大腸菌細胞内におけるDnaAのoriC結合様式について、in vivo footprinting法により解析し、I-siteと呼ばれるoriC内のATP結合型DnaA特異的な結合配列に着目している。どうやら、幾つかのI-siteではDnaA結合の細胞周期依存的な変動がみられるようであり、SeqAと呼ばれる開始制御に機能するヘミメチル化DNA結合蛋白質がこの変動に関与することを提唱した。

 大腸菌染色体の複製開始制御においてはSeqAだけでなくHdaも重要である。HdaはRIDAというDnaA不活性化機構に機能する蛋白質で、スライディングクランプに依存してATP結合型DnaA(活性型)からADP結合型(不活性型)への変換を促す。Lobner-Olesenらのグループはhda欠損によるDnaAの発現量の変化、およびそれに伴う開始異常について報告した。(しかしながら、hdaは増殖に必須であり、彼らのhda欠損株にはサプレッサー変異が入っているとのことなので、その点が疑問を感じるものではあった。)クランプ-DnaA相互作用による開始制御システムは大腸菌(グラム陰性菌)だけでなくグラム陽性菌である枯草菌にも保存されている。Noirotらはこのシステムに機能する蛋白質YabAの解析を進めていた。枯草菌YabAは構造的には大腸菌Hdaとはかけ離れており、その開始制御における機能がDnaAヌクレオチド結合型の変換によるものか、それとも別のメカニズムなのかは未だ不明である。黒川らが報告した黄色ブドウ球菌DnaAの解析からすると、グラム陽性菌においてもDnaAのATP/ADP結合型の変換はやはり複製開始コントロールに重要な機能を果たしているようである。クランプによる複製開始制御については真核生物においてもPCNAによるCdt1の制御機構が見出され、その普遍性が注目される。

【染色体・プラスミド分配】
 バクテリアの染色体分配は複製と同時進行でおこる。つまり、複製された領域が次々と両方向へと移動していくわけであるが、ではどのようなメカニズムで分配が行われているかは解明されていない。これについてはプラスミドの分配をモデルとした研究が詳細になされてきており、シスに働くDNA配列、この配列に結合する蛋白質、および駆動力として働くと考えられているATP結合蛋白質が基本システムとなっている。このATP結合蛋白質の一つとして大腸菌FプラスミドのSopAが知られている。仁木らはSopAが細胞内を左右に、らせんを描きながら往復していく様子をとらえた鮮明な像を示した。このらせんフィラメントがどのように分配に機能しているかは興味を惹かれる。先にも述べたようにMreBもらせんフィラメントを形成する。そして本ワークショップのオーガナイザーの一人であるGerdesらは、大腸菌MreBが染色体分配に関与するという論文を発表している。一方今回、このMreBの論文に異論を唱えるような報告があり、白熱した議論が交わされていたのが印象深かった。

 枯草菌においては、プラスミド分配システムの遺伝子と相同的な遺伝子SpoOJおよびSojが見つかっており、これらが染色体分配にある程度関与することが示唆されている。シスに機能する染色体領域を解析する試みとして、ErringtonらのグループではChip assayを用い、SpoOJの結合領域を示していた。これと独立して、ポスターにおいて、小笠原らがChip on Chipを用いたSpoOJ結合領域の解析を行っており、両者で同様の見解を示していたことを記憶している。大腸菌ではSpoOJホモログは見つかっていない。しかしながら、仁木らはこれまでに分配にシスに働く大腸菌染色体上の配列を見出しており、この配列に結合するトランスの因子について候補が見つかってきていることを報告した。

【細胞分裂】
 バクテリアの細胞分裂は、分裂部位でのFtsZリング形成が引き金となる。FtsZリング形成のタイミング・位置を制御する機構に関連した発表がいくつか見られた。FtsZリング形成位置はMinとNocというシステムが協同して制御している。Minシステムは細胞極に局在する因子(大腸菌では極から極へと左右に往復する因子)によって、両極で細胞分裂が起こらないようにしている。Nocは新しく見つかってきたシステムで、核様体が占めている位置での細胞分裂を防ぐ役割をしている。Nocシステムの詳細なメカニズムは分かっていないが、Erringtonらのグループによって精力的に解析が進められているようであった。他に興味深いものとして、染色体複製とFtsZリング形成が共役しているのではないかという発表もなされていた。

【カウロバクター】
 大腸菌、枯草菌を用いた研究が多かった中で、有柄細菌カウロバクターを用いた研究についても紹介しておきたい。カウロバクターは独自の細胞周期制御システムをもっているようで、ここ何年かの間に新しい発見が相次いでいる。その大御所であるShapiroのレクチャーがあるとのことで期待していたが、残念ながらこれはキャンセルとなった。
 これまでカウロバクターにおいてはMinやNocといった細胞分裂制御機構は見つかっていなかったが、今回MipZと呼ばれるMinとNocの両方の機能を併せ持つような蛋白質についての報告があった。MipZは染色体分配因子およびその結合配列(ori近傍)と複合体を形成し、両極への染色体分配と共役して細胞分裂のタイミングと位置を決定する因子であるとのことであった。

 また、このバクテリアは非対称分裂によって増殖するため、細胞極性のモデルとしても注目されている。その中で、極性を決定する因子MadXの報告がなされた(これはCell誌に別々のグループから連報で発表されており、そこではTipNという2報共通の命名がされていたのだが、今回ViollierらはMadXという別名を用いていた)。細胞分裂後、MadXは分裂面に傷跡のように留まり(Birth scar proteinと呼んでいた)、これが次世代の非対称分裂のための目印となるという極性モデルを報告した。


 以上、浅い知識と記憶に頼って書き連ねてしまったが、少しでもバクテリア細胞周期研究の世界を知って頂けたなら幸いである。バクテリアの細胞周期に特化した研究集会が高いレベルと熱気で楽しめることは国内外を通じて多くはない。その意味で大変楽しませてもらい、またパワーとやる気をもらったワークショップであった。
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代表者あいさつ 編集後記 ©2007  染色体サイクル