研究成果

【プレスリリース】ユークロマチンは凝縮した塊をつくり、コヒーシンは塊が“混ざる”のを防ぐ

 前島研究室・ゲノムダイナミクス研究室
黒川研究室・ゲノム進化研究室
鐘巻研究室・分子細胞工学研究室
工樂研究室・分子生命史研究室

Cohesin prevents local mixing of condensed euchromatic domains in living human cells

Masa A. Shimazoe†, Shiori Iida†, Katsuhiko Minami†, Koichi Higashi†, Sachiko Tamura, Yoshiaki Kobayashi, Shin Fujishiro, Le Xiong, Kako Nakazato, S. S. Ashwin, Tomoko Nishiyama, Yu Nagata, Masato T. Kanemaki, Akane Kawaguchi, Yasuyuki Ohkawa, Lothar Schermelleh, Atsushi Toyoda, Liangqi Xie, Ken Kurokawa, Hiroshi Ochiai, Masaki Sasai, and Kazuhiro Maeshima*
†co-first authors; *corresponding author

Nature Genetics DOI: 10.1038/s41588-026-02736-2

プレスリリース

Behind the Paper

ヒトの細胞核に収納されたゲノムDNAは、大きく二つの領域に分けられます。一つは、遺伝子が多く、読み出し(転写)が活発な「ユークロマチン」です。もう一つは、遺伝子が少なく、転写が抑えられている「ヘテロクロマチン」です。これまでユークロマチンは、DNAを読み出す分子が近づきやすい「オープンな構造」として、教科書で説明されてきました。しかし、生きた細胞の中でユークロマチンが実際にどのような形をとり、どのように動いているのかは、分かっていませんでした。

このたび、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の島添將誠 大学院生(総合研究大学院大学、日本学術振興会特別研究員DC1)、飯田史織 特任研究員(現 独マックス・プランク分子生物医学研究所)、南克彦 特任研究員(現 米ハーバード大学)、東光一 助教 (現 バイオ生成AI研究開発センター准教授)、黒川顕 教授、前島一博 教授らは、九州大学の落合博 教授らを含む国際共同研究チームと共同で、ヒト生細胞内のユークロマチンをナノメートルスケールで解析しました。

研究チームは、ユークロマチンに多いヒストンの一種H3.3を標識し、1個1個のヌクレオソームの動きを追跡する1分子ヌクレオソームイメージングと、超解像蛍光顕微鏡法を組み合わせました。これにより、ユークロマチンの構造と物理的性質を、生きた細胞の中で詳しく調べることができました。その結果、ユークロマチンは単に開いた構造ではなく、数百ナノメートルほどの大きさで、凝縮しながらもやわらかく流動性をもつ塊(クロマチンドメイン)を形成していることが分かりました。さらに、DNAをループ状に束ねるコヒーシンを急速に分解すると、ドメインは凝縮したままである一方、ドメインの流動性が増し、近接するドメイン同士が混ざりやすくなりました。また、近接した遺伝子同士の転写が同時に起こる頻度も増加しました。

これらの結果から、コヒーシンは凝縮したユークロマチンドメイン同士が「混ざる」のを防ぎ、近くにある遺伝子がそれぞれ適切に転写されるようにしていると考えられます。本研究は、クロマチンは単に「開いているか、閉じているか」だけで理解できるものではなく、活発にはたらくクロマチンも凝縮したドメインとして存在し、適度に分かれていることがゲノム機能に重要であることを示しました。

本研究は、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所 島添將誠 大学院生(総合研究大学院大学(総研大)、日本学術振興会特別研究員DC1)、飯田史織 特任研究員(現 マックス・プランク分子生物医学研究所)、南克彦 特任研究員(現 ハーバード大学)、東光一 助教 (現 情報・システム研究機構 バイオ生成AI研究開発センター准教授)、田村佐知子 テクニカルスタッフ、仲里佳子 大学院生(総研大、日本学術振興会特別研究員DC2)、長田侑 大学院生(総研大)、鐘巻将人 教授、川口茜 助教、豊田敦 特任教授、黒川顕 教授、前島一博 教授、九州大学 小林芳明 助教、大川恭行 教授、落合博 教授、京都大学 藤城新 研究員、西山朋子 教授、笹井理生 研究員、米国クリーブランド・クリニック Le Xiong 研究員、Liangqi Xie グループリーダー、インド・ガンジー工科経営大学(GITAM)S. S. Ashwin 准教授、英国オックスフォード大学 Lothar Schermelleh 教授による国際共同研究チームでおこないました。

本研究は、日本学術振興会(JSPS)および文部科学省科学研究費助成事業(JP20H05937、JP23K17398、JP24H00061、JP25K24664、JP22H00406、JP21H04767、JP25H02584、JP24H02326、JP23KJ0996、JP23KJ0998、JP24KJ1161、JP26KJ1223)、武田科学振興財団、JST CREST(JPMJCR23N3)、JST SPRING(JPMJSP2104)、情報・システム研究機構(ROIS)、九州大学Medical Research Center Initiative for High Depth Omics、文部科学省「共同利用・共同研究システム形成事業」のCooperative Research Project ProgramおよびCoalition of Universities for Research Excellence Program(CURE、JPMXP1323015486)、American Cancer Society Postdoctoral Fellowship(PF-25-1409973-01-PFMBB)、National Institutes of Health(NIH)(1DP2GM154017-01)、Mathers Foundation(MF-2207-02991)、American Cancer Society(DBG-22-112-01-DMC)、九州大学生体防御医学研究所共同利用・共同研究拠点のCooperative Research Project Programの支援を受けました。NIG-JOINT(15R2025、69A2024、42A2025)、ならびに先進ゲノム支援 (JP22H04925 (PAGS))のシークエンス・解析サポートを受けています。

(A) ユークロマチンはオープンな構造であり、コヒーシンがDNAを束ねてループを形成すると考えられてきた。(B) 実際には細胞の中ではユークロマチンは流動性を保ちつつも、凝縮した塊(ドメイン)を作っていた。コヒーシンはクロマチンドメインを固くし、混ざらないようにしていた。(C) コヒーシンを迅速に除去すると、ドメインの流動性が増し、ドメイン同士が混ざりやすくなる。その結果、ドメインの転写制御が乱れ、隣接するドメインにある遺伝子の転写が同時に起こりやすくなったりする。

H3.3-Haloで標識した生きたヒト細胞のユークロマチンを、3D-SIMで撮影した動画。核内で、ユークロマチンが凝縮した構造を形成している様子が観察された。