2024/08/28

混雑した環境が分裂期染色体の凝縮を促す
~「密度」イメージングによる新たな発見~

Orientation-Independent-DIC imaging reveals that a rise in depletion attraction contributes to mitotic chromosome condensation

Shiori Iida , Satoru Ide , Sachiko Tamura, Masaki Sasai, Tomomi Tani , Tatsuhiko Goto , *Michael Shribak , *Kazuhiro Maeshima
*責任著者

Proceedings of the National Academy of Sciences (2024) 121(36), e2403153121 DOI:10.1073/pnas.2403153121

プレスリリース資料

細胞が分裂するとき、ゲノムDNAは小さく折りたたまれて「分裂期染色体」という棒状の構造体に凝縮します。この凝縮は、細胞分裂のときに染色体にかかる強い張力によるゲノムDNAの切断を防いでいます。本研究では、分裂期染色体の凝縮を引き起こす新たなメカニズムを発見しました。

情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の飯田史織 総合研究大学院大学 大学院生、 井手聖 助教(現 東京都医学総合研究所 研究員)、田村佐知子 テクニカルスタッフ、前島一博 教授らの研究グループは、米国ウッズホール海洋生物学研究所(MBL) のMichael Shribakシニアサイエンティストと共同で、生きた細胞内の密度(混雑度)を定量できる顕微鏡を用い、分裂期染色体の周辺環境の混雑度の一過的な上昇が分裂期染色体の凝縮に寄与していることを明らかにしました。

細胞内は、タンパク質やRNA、DNAなどの巨大分子が小さな空間に詰め込まれた、非常に混雑した環境です。このような混み合った環境において大きな構造物が集合しやすくなる「枯渇力」は、物理学では古くから知られた現象です。本研究により、細胞が分裂するときに、分裂期染色体の周辺環境の混雑度が上昇すること、またそれによって枯渇力が上昇し、分裂期染色体の凝縮を促進することが明らかになりました(図)。

分裂期染色体が正常に凝縮しないと、ゲノムDNAの切断が誘発され、細胞死や細胞のがん化など、さまざまな異常をもたらし、関連する疾患も知られています。本研究は、このような細胞の異常が起こる仕組みの解明にも貢献することが期待されます。

本研究成果は、情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所・ゲノムダイナミクス研究室 (飯田史織 総研大 大学院生[元 SOKENDAI 特別研究員、現 学振特別研究員 DC2]、井手聖 元助教[現 東京都医学総合研究 所ゲノム医学研究センター 外部支援研究員]、田村佐知子 テクニカルスタッフ、前島一博 教授) 、京都大学 (笹井理生 研究員)、産業技術総合研究所(谷知己 研究グループ長)、帯広畜産大学(後藤達彦 准教授)、 米国ウッズホール海洋生物学研究所(MBL)(Michael Shribak シニアサイエンティスト)との共同研究成果です。

本研究は、日本学術振興会(JSPS) 科研費(21H02453, 22H05606, 21H02535, 23K17398, 23KJ0996, 24H00061)、学術変革領域 A「ゲノムモダリティ」(20H05936)、JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム (JPMJSP2104)、武田科学振興財団、総研大遺伝学教育コース派遣助成、総研大研究派遣プログラムの支援 を受けました。

図: 細胞分裂前の間期には、核膜が細胞質と核を隔てている。細胞質や核小体の密度は核よりも高い。細胞が分裂する際、核膜や核小体が崩壊することで、細胞質に存在するリボソームなどの大きなタンパク質複合体や細胞小器官が分裂期染色体に接触できるようになる。これによって上昇した枯渇力が、分裂期染色体の凝縮に寄与する。


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