I.巻 頭 言

ここに国立遺伝学研究所年報第48号(平成9年)をお届けします.私は任期満了とな った富澤純一前所長の後任として平成9年10月1日に着任したので,ここにご報告する 研究所の活動や成果の多くは前所長のリーダーシップのもとに行われたものである.8年 間の前所長の時代に行われた研究所の改革が実を結び,最先端の研究を推進して世界をリ ードする研究所への脱皮がようやく現実のものとなり始めた年といっても良いと考えてい る.とくに事業をもつ研究センターの充実が引続き行われ,共同利用事業の発展と研究活 動のレベルアップをはかるために特に若手スタッフの充実が行われたことは今後の研究所 のさらなる活性化につながるものと期待される.

平成9年1月から12月の期間における組織の変更としては,遺伝実験生物保存研究センターを廃止して,新たに系統生物研究センターと生物遺伝資源情報総合センターが設置された.教官の人事異動としては,永年研究所の発展に貢献された堀内賢介教授(微生物遺伝研究部門)および原田(太田)朋子教授(集団遺伝研究部門)が停年退官された.
また,徳永万喜洋助教授(生体高分子研究室),岡部正隆助手(発生遺伝研究部門)と斉藤 哲一郎助手(発生工学研究室)が採用されてセンターおよび部門の陣容が充実された.一 方,出原賢治助手(人類遺伝研究部門)は九州大学医学部へ,東谷篤志助手(微生物遺伝 研究部門)は東北大学遺伝生態研究センター助教授へ,伊奈康夫助手(集団遺伝研究部門) は生物分子工学研究所へ,後藤英夫助手(細胞遺伝研究部門)は農林水産省家畜衛生試験 場主任研究官へ,金丸研吾助手(原核生物遺伝研究室)は東京大学分子細胞生物学研究所 助手へ,松本健一助手(進化遺伝研究部門)は北海道大学薬学部助教授にとそれぞれ転出した.管理部では,黒田英雄管理部長が長崎大学に転任となり,かわって砂田氏が着任した.

総合研究大学院大学生命科学研究科遺伝学専攻については後期博士課程学生32名の教育指導を行い,あらたに11名が入学し,10名が理学博士の学位を取得した.その他,COE関係では外国人研究員4名,博士研究員5名が研究と教育とを行った.本年度の特筆すべき行事としては,国立遺伝学研究所国際シンポジウム“Gene Func tions to Cell Differentiation”を開催し,外国人22名とわが国から27名(うち当研究所から12名)の招待講演者を招いて最新の成果を発表する機会を持った.特に当研究所の多くの研究者が参加し,参加した外国人研究者からも評価を受ける貴重な機会となった.

以上述べたように,研究所の改革と拡充発展は順調に推移したと言える.研究所の第2期将来計画の終りに当たり,その計画に盛られた趣旨は不十分ではあるがかなり実現したと言えよう.現在所内では,遺伝学・生命科学の新しい動向をも踏まえて,新たな第3期将来計画が立案されつつある.「遺伝学」という学問は生命科学のあらゆる分野を統一する基礎としての意味をもつために,古い歴史を持ちながら古くならないという可能性を持っている.しかしそれは,意識的に努力を重ねて自己改革を行っていかなければ沈滞の恐れがあるということをも意味する.そのような学問の特徴を生かしつつ次の時代に向けて進むスタートは既に始まっている.現在は遺伝学研究所にとって世代交代の時期ととらえることもでき,21世紀に向けてここで舵取りを誤ってはならない.そのために既にわれわれは自己点検と自己評価,さらに外部からの評価をうけた結果を踏まえてこの第3期将来計画を策定している.本冊子をお読みいただいた方々からもぜひともご批判,ご示唆をお願いしたい.

堀 田 凱 樹