
野生由来マウスにひとめぼれ
もともと心理学で動物行動を研究していた私が、まさか遺伝学の研究所で研究ができるようになるとは思ってもいませんでした。大学院生1年のときに教授に連れられて遺伝研のラボを見学した際に、実験用系統とは全く違った魅力的な行動特性を示す野生由来マウスをみて一目で恋に落ち、このマウスで研究をしたいと思ったのがきっかけで、遺伝研に押しかけることとなりました。修士論文をこの野生マウスの研究で書かせていただいた後、どうしてもこの研究を続けたいということで、遺伝研で研究が続けられる総研大に入りました。
自由に研究を行うことができる雰囲気
総研大に入って感じた素晴らしさは、充実した研究設備と、かなり自由に研究を行うことができる雰囲気です。また、世界的に活躍する研究者の方々と一緒に、研究について活発な議論したりアドバイスをいただける環境で、実験やその結果についてしっかりと考えることを学びました。遺伝研はみなさんとても気さくで、気兼ねなく色々な議論を楽しみながらできるところも魅力です。実験が失敗したときや、方法が分からないときに、同じ研究室の人だけでなく他の研究室の人も丁寧に相談に乗ってくれるため、理系実験の基礎知識のほとんどなかった私でもなんとか研究を行ってくることができました。学生同士の横のつながりの強さ
総研大でよかったのは学生同士の横のつながりの強さもあります。色々なラボに所属するメンバーと、お酒を飲みながら研究のことからくだらないことまで毎週のように語り合えたおかげで、研究で行き詰ったときもなんとか乗り越えることができました。毎年のように学生メンバーで旅行したりと、研究だけでなく遊びも充実していたと思います。また、遺伝研では様々な部活動があり、私はバトミントン部で週末には汗をかいたり、音楽活動をしたりして気分転換をしていました。研究をしていると、一日中マウスを見ていて終わるということがしょっちゅうなのですが、こういった気分転換があったおかげで、3年間の楽しく苦悩な研究生活を乗り越えられました。
海外でのポスドク生活にも大きく役立つ
遺伝研では英語による教育に力が入っており、また海外からの研究者や学生も複数いることから、英語を使う機会が比較的多くあります。これらの経験が、国際学会での発表の時や、海外でのポスドク生活を送る上でも、大きく役立っていると思います。
自立した研究者になるためのトレーニングの場として、総研大はお勧めです!
きっかけは大学院説明会
総研大で研究をしたいと思うようになったのは修士一年の終わり頃だったと思います。DNAのメチル化やヒストンの修飾など、DNAの配列以外の情報による遺伝子発現やゲノムの制御に興味があり、エピジェネティクスの研究をしたいという気持ちがありました。遺伝研で行われた大学院説明会に参加し、エピジェネティクスの研究をやるならここだ!という天啓にも似たものを信じて、総研大の角谷研究室を受験しました。
総研大/国立遺伝学研究所での3年間
総研大では自由に研究ができました。角谷研での研究テーマは、シロイヌナズナのddm1変異体での局所的DNA高メチル化機構についてでした。ddm1変異体は、DNAのメチル化がゲノム全体で低下する変異体ですが、BONSAIと呼ばれる遺伝子座では、反対に高メチル化が誘導されることが示されていました。このDNAメチル化の誘導には、これまでに知られていたsmall RNAによるDNAメチル化機構ではなく、ヒストンの修飾を介した別の経路が関わっていることが分かりました。
角谷先生は基本的には放任主義でしたが、プログレス発表やディスカッションを通して、実験の組み立て方、データの信頼性など、研究についての考え方を学んだように思います。必ずしもスムーズに進んだとはいえない大学院時代の仕事ですが、整った研究環境と第一線の研究者の方々に囲まれたなかで研究に没頭できた、幸せな三年間でした。
卒業後は海外で研究
総研大では英語教育にも力が入れられています。短期留学生の方がくることもあり、苦手以前に持っていた英語に対する恐怖心は、このときに大分払拭できたのではないかと思います。また、セミナーなどで、角谷研に研究者の方が来るときには、論文でしか知らなかった有名な研究者と自分の研究について話す時間を作ってもらったり、直接意見をいただけたりと、貴重な時間を過ごすことができました。このようなことを通して、卒業後は海外で研究したいということを現実的に考えるようになりました。総研大で過ごした三年間を通して、自分の世界が広がったように思います。
学位取得後は、ウィーンにあるGregor Mendel Institute(GMI)というところで、ポスドクとして研究を行っています。現在所属する研究室は、自分がエピジェネティクスに興味を持つきっかけになった論文を出した研究室で、いつかはここで研究をしてみたいと思っていた場所でした。研究テーマは、small RNAによるDNAメチル化機構についてです。日々新しいことが発見されている分野ですが、世界はまだまだ不思議なことに満ちています。興奮する瞬間を体験するため、今日も実験をしています。