DNA損傷応答チェックポイント経路による菌糸の誘導
Molecular and Cellular Biology誌30 (20) : 2909-2917. 2010.
仁木研究室(原核生物遺伝研究室)
The DNA damage checkpoint regulates a transition between yeast and hyphal growth in Schizosaccharomyces japonicus.
Kanji Furuya and Hironori Niki
Molecular and Cellular Biology , 30 (20) : 2909-2917. 2010.  doi:10.1128/MCB.01613-09


 菌類は、その多くが伸長した細胞、すなわち菌糸として生育し、さらにこれらが寄り集まり菌糸体を作る。キノコはその代表であり、カビもまた菌糸体を作る。菌糸は伸長しながら寄生する生物や固形の栄養物の中に深く侵入する。身近には、水虫として知られる白癬菌が、皮膚の角質内部へ深く侵食し、その治療を困難にしているのも菌糸によるものである。他方、菌類でありながら、菌糸を作らず、単細胞として増殖するものがいる。これらを総称して酵母とよぶ。酵母の中には、時として菌糸になる能力を未だ兼ね備えているものもいる。その一つがカンジダ菌である。この菌は多くの一般人に常在し、日頃はなんの悪さもしない。が、時として病原性を示すことから、医学上の研究がなされてきた。今日まで、カンジダ菌の病原性は、菌糸にその増殖型を変えることで発揮することが分かっている。また菌糸への誘導には、外部の栄養条件が刺激となっていることも分かって来ている。今回、私たちは非病原性の Schizosaccharomyces japonicus (ジャポニカス分裂酵母)を使って、菌糸誘導がDNA損傷を与える環境ストレスによっても誘発されることを見いだした。一般にDNAストレスは、細胞周期チェックポイント経路にあるRad9により感知され、これがChk1キナーゼを活性化する。菌糸誘導においても、このRad9-Chk1経路が機能していることを遺伝学的に明らかにした。すなわち、Chk1キナーゼは細胞周期停止という細胞周期の監視機能だけでなく、酵母型から菌糸型への細胞分化の誘導にも機能していたのだ。本研究では、DNA損傷を起すカンプトテシンという薬剤を低濃度で添加して菌糸を可逆的に誘導することに成功している。このDNAストレスによる可逆的な菌糸誘導とその観察のシステムの開発は、今後の菌糸の研究としても有意義なものである。


説明図
酵母には、酵母型と菌糸型の2つの生育様式(二形性)を持つものがある。これまでの、二形性の転換を引き起こす外部ストレスとしては栄養条件の悪化などが知られていただけであった。Schizosaccharomyces japonicus 、ジャポニカス分裂酵母の研究から、DNA損傷によるストレスも、菌糸誘導をすることを見いだした。細胞周期停止のシグナルを発するChk1キナーゼが菌糸分化をも誘導する。ジャポニカス分裂酵母の微分干渉顕微鏡像では、ヒストンH3の蛍光ラベルにより核を緑またはマゼンダで現している。


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