中心体の複製はどのように始まるのか?
〜十億年以上にわたり進化上保存された9回対称構造の謎を解く〜
Cell誌オンライン公開中
北川研究室(新分野創造センター 中心体生物学研究室)
Structural basis of the 9-fold symmetry of centrioles.
Daiju Kitagawa, Ioannis Vakonakis, Natacha Olieric, Manuel Hilbert, Debora Keller, Vincent Olieric, Miriam Bortfeld, Michèle C. Erat, Isabelle Flückiger, Pierre Gönczy, Michel O. Steinmetz
Cell 144, 364-375. February 4, 2011 DOI 10.1016/j.cell.2011.01.008


  中心小体(centriole)は動物細胞における細胞小器官である中心体(centrosome)の核として機能し、微小管構造の形成に重要な働きをしています。中心小体の複製は同様に複製されたゲノムを正確に、そして均等に娘細胞に分配する過程において必須であり、ゲノム恒常性維持に深く関与しています。また、中心小体は精子鞭毛や繊毛の形成を調節しており中心小体が正常に機能しないと鞭毛や繊毛が形成されず、様々な疾病を起こすことが報告されています(ciliopathy、男性不妊など)。
中心小体は9回対称性を有した円筒状の特徴的な構造体で、その不思議な自己複製機構は未解明な部分が多く、細胞生物学の最大の謎の一つとされています。
本研究で我々は生物物理学、生化学、構造生物学、細胞生物学的解析を駆使した複合的アプローチにより中心小体がどのように構築され始めるかを世界で初めて分子レベルで明らかにしました。中心小体複製に必須の蛋白質であるSAS-6に着目し、その生物物理学的、構造学的解析からSAS-6が自己会合することで中心小体の基底部にあたるカートホイール構造が形成され、 さらに驚くべき事に中心小体構造全体の9回対称性を規定していることを解明しました(図1)。また、線虫初期胚及びヒト培養細胞においてSAS-6の自己会合を阻害すると中心小体の複製が抑制されることもわかりました(図2)。以上の発見はこの分子メカニズムが進化的に保存されていることを示すものであり、真核生物において普遍的に保存された中心小体の形成機構に新たな知見をもたらすものです。

Figure1
図1 SAS-6二量体は自己会合し9回対称のリングを形成する。(A) クラミドモナスSAS-6のX線構造解析から得られた9回対称性のモデル。シミュレーションから9つの SAS-6二量体 が同一平面上にリング構造を形成することを示した。 (B)クラミドモナスSAS-6リコンビナント蛋白質の電子顕微鏡画像。クラミドモナスSAS-6二量体は自己会合し9回対称のリングを形成する。リング部分 はSAS-6のN末端ドメインにより形成され、リングの外側にはSAS-6のcoiled-coilドメインが突き出している。この SAS-6複合体の構造は中心小体の基底部にあたるカートホイール構造と極めて類似している。Scale bar, 50 nm.
Figure2
図2 SAS-6の自己会合は中心小体複製に必要である。 線虫初期胚においてSAS-6の自己会合を阻害すると中心小体の複製が起こらない。SAS-6野生型(左)を発現する線虫初期胚では中心小体は正常に複製するが、自己会合できないSAS-6変異体(右)では中心小体複製が起こらない。SAS-4:中心小体マーカー。
Figure3
図3 SAS-6は中心小体構造における普遍的な9回対称性を規定する。

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