A novel RNA-recognition-motif protein is required for premeiotic G1/S-phase transition in rice ( Oryza sativa L.)
Ken-Ichi Nonomura, Mitsugu Eiguchi, Mutsuko Nakano, Kazuya Takashima, Norio Komeda, Satoshi Fukuchi, Saori Miyazaki, Akio Miyao, Hirohiko Hirochika, Nori Kurata
PLoS Genetics 7(1): e1001265. doi:10.1371/journal.pgen.1001265
植物が種子を残すためには、ある時期に一斉に花粉および胚のうを作り出し、同じタイミングで受精を成立させる「しくみ」が必要です。日の長さや温度の変化を感知して一斉に生殖過程へと移行するのは、最初に働く最も重要なしくみです。他にも様々なしくみがありますが、「減数分裂へ移行するタイミングの制御」もその重要な一つです(図1)。
今回、国立遺伝学研究所 実験圃場の野々村賢一准教授は、同じく遺伝研の倉田のり教授、農業生物資源研究所の廣近洋彦博士らとの共同研究により、体細胞分裂から減数分裂への移行に必要な新規イネ遺伝子の同定に成功しました(図2)。減数分裂前にはバラバラに体細胞分裂を繰り返す生殖細胞は、この遺伝子の機能により、あるタイミングで一斉に減数分裂へと移行することがわかりました。このような現象は被子植物全般で共通してみられることが知られますが、本研究により世界ではじめて、植物の生殖細胞が体細胞分裂から減数分裂に移行し、同調的に花粉や胚のうを作るまでの分子メカニズムの一端を明らかにしました。
<研究成果のポイント>
- 被子植物の葯の中では、バラバラに体細胞分裂していた生殖細胞が、あるタイミングで一斉に減数分裂を行い、その後2回の体細胞分裂を経て花粉が作られる(図1)。
- 種子が全く稔らないイネ突然変異体のひとつを用いて新規遺伝子を同定し、 MEL2 と命名した。
- MEL2は配列中に3つのモチーフをもつ蛋白質であり、この3つのモチーフを同一配列内に全てもつ蛋白質はイネ科のみで見いだされた。
- MEL2はRNAとの結合が予測されるRNA認識モチーフ(RRM)を持ち、その周辺の配列はヒト無精子症の関連遺伝子のひとつとして知られるDAZAP1とよく似ていた。
- 一連の結果から MEL2 は、雌雄の生殖細胞が体細胞分裂から減数分裂へと移行するタイミングを制御するマスター遺伝子であることが強く示唆される(図2)。
- 花粉は高温や低温下では減数分裂前後の過程が障害され、不稔になることが知られる。今回および今後の研究成果は、こうした冷害などの対処法に結びつく可能性をもつ。
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図1.花粉生産における同調性の確立は、減数分裂を開始するタイミング制御に起因する
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図2. mel2 突然変異体の生殖細胞は減数分裂に移行できない
写真 AとBは、それぞれ正常イネと mel2 変異体の葯(減数分裂直前)の縦切り切片を示す。この実験では、減数分裂に移行する前の細胞のみで働く遺伝子(MEL1遺伝子、Nonomura et al. 2007)を発現している細胞が青く染まっている。正常な生殖細胞(白矢印)は既に減数分裂に移行しているため、MEL1発現量が低下しているが、 mel2 変異体の生殖細胞(黒矢印)は減数分裂に移行できず、MEL1遺伝子の発現が非常に強いままである。
写真CとDは、それぞれ正常イネと mel2 変異体の生殖細胞の核を示す。染色体を構成するDNAは青色に染色され、減数分裂において染色体と結合するイネ蛋白質 (PAIR2) (Nonomura et al. 2006) は赤色に染められている。正常イネでは、減数分裂が進行し、PAIR2蛋白質が染色体と結合して、ひも状構造を呈している(DNAの青とPAIR2の赤が重なって明るい紫色に見える)。一方、ほぼ同じ時期における mel2 変異体の細胞では、正常な減数分裂が全く行われず、PAIR2のひも状構造が全くみられない。
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−用語解説−
胚嚢(はいのう)
被子植物の雌しべ内部に作られる生殖器官。雌性配偶体。一般に1つの卵細胞、2つの助細胞、1つの中央細胞(2つの極核をもつ)、そして3つ以上の反足細胞からなる。雌しべの先端に付着した花粉から伸びる花粉管は、2個の精細胞を胚嚢まで運び、精細胞の1つは卵細胞と融合して胚に、もう1つは中央細胞と融合して胚乳になる(重複受精)。
減数分裂
DNAの複製を伴わない2回連続した細胞分裂を指す。その結果として親個体(2n)から染色体が半減した配偶子(n)が形成される。配偶子が受精して、再び2nの個体が再生されるというサイクルを繰り返すことで、生物は染色体数を一定に保っている。
RNA、RNA認識モチーフ
生体内での挙動や構造により様々に分類されるが、ここでは主にメッセンジャーRNA(伝令RNA、mRNA)を指す。mRNAは、遺伝子の本体であるDNAを鋳型として作られ、蛋白質合成を行うリボソームに遺伝情報を伝達する役割をもつ。リボソームでmRNAから蛋白質が合成される過程は「翻訳」と呼ばれる。
今回発見されたイネMEL2蛋白質がもつRNA認識モチーフ(RRM)は、標的とするmRNAと結合して翻訳過程を促進、あるいは阻害する働きをもつ蛋白質にしばしば含まれることが、動物などの研究から知られている。
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